半導体戦争 失われた30年

 1980年代日本では「半導体は産業の米」と言われ半導体が繁栄を極めた時期もありました。現在、半導体は地政学的な「安全保障の重要な米」へと変化しました。

クリス・ミラー著のフィナンシャル・タイムズ ビジネスブック・オブ・ザ・イヤー2022受賞「半導体戦争(CHIP WAR)」は半導体の誕生、進化をアメリカを軸に台湾、日本、韓国の動向、独裁国家のソ連、中国の動向を踏まえ時系列的に描かれた半導体叙事詩です。

著者のクリス・ミラー(Christopher Miller)は技術地政学、半導体、ソ連を専門にするアメリカの政治学者で、この著作で一躍有名になりました。

私はパナソニックで機器のソフト開発に従事し、CPUと呼ばれる半導体(コンピュータ)や周辺の様々な半導体を使い、装置のソフトウェアを開発していたため、半導体の進化や、海外の半導体の栄枯盛衰や日本の半導体の凋落をリアルタイムに経験してきました。

そのため、この本は半導体の進化がわかるテクノロジの物語としてだけでなく、各国の半導体を巡る熾烈な駆け引きの裏側がわかる、スパイ小説のような面白さがあります。

今回のウクライナ戦争、台湾有事からもわかるように「半導体」は安全保障の面からも非常に重要な「物資」であり、製造のための複雑なグローバルサプライチェーンは重要な「システム」でもあります。さらに「半導体」はクラウド、AIといったITの進化に欠かせない重要な成長エンジンでもあります。

本の後半では中国の半導体の情報の盗み出し、海外の半導体会社の買収、社員の引き抜きとあらゆる手段で半導体を1国で製造しようとする試みと、アメリカのファーウェイの締め出し、半導体製造機械の輸出規制の対向措置が詳しく書かれており、正に半導体は安全保障上の重要な「物資」「システム」であることが分かります。

現在の半導体は設計(ファブレス)、前工程(ファウンダリ)、後工程(OSAT)の分業体制で製造されていて、インテルのみが全工程を自前で行っています。

半導体で、性能を決めるプロセスルールを決める工程が前工程(ファウンダリ)でありトップは台湾のTSMCで、現在プロセスの3nmの量産を目指しています。3nmを実現するために重要な装置がオランダのASML社のEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置で1台180億円します。TSMCとASML無しでは高性能の半導体は製造できないため、中国一国で高性能の半導体を製造することは事実上不可能です。

本の3章では日本の半導体の台頭と凋落が書かれていますが、この本の全体から見たら非常に短い出来事です。凋落の原因は日本の自滅として書かれています。この図は半導体の売上高のグラフですが、ほぼバブル崩壊から始まる日本経済の凋落(失われた30年)とリンクしていることが分かります。原因の分析は色々な所でされていますが、「電子立国日本」「ジャパンアズNO1」の成功体験を信じたまま、急速に変化する世界に、経産省・企業がついて行けなかったからだと思います。

現在、経産省主導でラビダスが2nmの半導体製造を目指し北海道に工場を建築していますが、40nmの日本のプロセスの実力では無謀だと思います。一方日本は、半導体のメインプレイヤーではありませんが、東京エレクトロン・ディスコ等の製造装置、信越化学等の材料はファウンダリーの中の重要なキープレイヤーです。キープレイヤーに補助金を投入するほうが正しいのではないでしょうか。

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